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震災メメントモリ―第二の津波に抗して

 本書は震災で発せられる多くの“なぜ?”という問いに答えようとしました。「なぜ命を守る防潮堤建設を地元が拒否するのか」「なぜ津波に向かって船を出す(沖出しする)のか」「なぜ心を癒すカウンセリングに被災者は行かないのか」「なぜ生産効率が下がる協業化を大人数でやるのか」「なぜアルコール依存症を誘発する居酒屋を仮設に作ったのか」「なぜコミュニティ活動が過剰になるのか」「なぜ生活の二の次である祭礼に熱心に取り組むのか」などです。

 本書のメメントモリとは、死者を想えという古の言葉です。東日本大震災の現実を見てきた私たちにとって、『震災メメントモリ』は、遺族にとって最も大事なものの喪失を色付けることを通じて、不確かな将来や亡き人を自分たちの側に手繰り寄せ、より確かであろう世界を再建する(生きなおす)人々の営為です。それは、現在進められている、死者を早く忘れることによって生の再建を果たすことや、将来再び訪れる災禍をいかに未然に防御するかに腐心してより高い防潮堤を建設してこれまでの海の暮らしの歴史性を断ち切ること、あるいは全く新たな産業を導入することで雇用を確保しようとする復興政策とは真逆の在り方でもあります。地道なフィールドワークによって見えてきたものは、信仰という意味での「向こう岸」の死者との霊的な交流ではなく、生ける死者との協同実存として、生者と死者の回路をつなぐ技法でした。3年経った今だからこそ見えてくる「問いかけ」が本書にはあり、その新たな発見から千年に一度の災害を経験した私たちと震災との関わり方を見直します。


震災メメントモリ 目次

写真集 3・11以後を生きる震災誌

はじめに

第1章 彷徨える魂のゆくえをめぐって
1 不条理な肉親の死――仙台市と女川町を襲った津波
2 災害死の社会・文化的位置づけ
3 〝過剰な〟コミュニティの誕生――名取市閖上の仮設自治会
4 ifの未死と彷徨える魂のゆくえ
5 〝過剰な〟コミュニティの意味

第2章 「生きなおす」ための祭礼
――拠って立つ居場所を具現化する祭礼の意義
1 巨大地震でも落ちなかった受験の神様と〝担がれないお神輿〟
――石巻市北上町追波・釣石神社
2 人びとの心まで流されなかった獅子振り――女川町竹浦
3 浄土を再現する舞――宮古市浄土ヶ浜「鎮魂の祈り」プロジェクト
4 「生きなおす」ための統合機能としての祭礼

第3章 内なるショック・ドクトリン――第二の津波に抗する生活戦略
1 ショック・ドクトリンとは何か
2 再生するコミュニティ――石巻市桃浦・気仙沼市唐桑町・南三陸町戸倉・宮古市重茂
3 創造的破壊としての構造改革
4 在地リスクを回避するコミュニティ
5 非日常を飼い慣らす

第4章 千年災禍のコントロール――原発と津波をめぐる漁山村の論理
1 なぜ人は災害リスクのある故郷にとどまるのか
2 「計画的避難区域」に住み続ける論理――福島県飯舘村
3 「水産業復興特区」に対抗する漁村の論理――石巻市北上町十三浜
4 災害リスクをコントロールする
5 災禍を吸収するコミュニティの潜在力

第5章 「海との交渉権」を断ち切る防潮堤
――千年災禍と日常を両属させるウミの思想
1 海と〝仲良く〟する
2 巨大な防潮堤建設の思想
3 防潮堤のない港町――気仙沼市魚町
4 海と陸がつながっている第二の故郷
5 「海との交渉権」を断ち切る危機

第6章 震災メメントモリ
――痛みを温存する「記録筆記法」と死者をむすぶ回路
1 『3・11慟哭の記録』と予想外の反響
2 御遺族に送った依頼メール
3 「記録筆記法」の効果
4 死者が生き続ける「痛み温存」の意味
5 震災メメントモリ――死者をむすぶ回路

震災覚え書き
灯りの見えない未来――ねじれていった心

おわりに――震災メメントモリを伴った復興論
あとがき
参考文献
初出一覧
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